運動学習と神経基盤

脳の解剖と機能について紹介します。

運動学習と神経基盤

運動学習の様式

運動学習の様式は

  1. 連続的運動学習
  2. 適応的運動学習

に分類される。

連続的運動学習とは連続的に繰り返される動作から、動作の順序に関する知識を得ることで、
目的の課題に対する身体の操作手順の習得におけるプロセスのこと。

適応的運動学習とは、ターゲットに向けて上肢到達運動を行う、道具を使った運動や操作のように環境条件に従い変化していくもので、
実行した運動とその結果から得られる感覚フィードバックによる誤差学習の重要性が明らかになっており,
知覚・認知処理が関与すると考えられている。

 

それぞれの神経基盤

連続的運動学習

線条体などの大脳基底核が主に関与する。

適応的運動学習

小脳が主に関与する。

 

しかし、これらは独立して働くわけではなく、視床を介した連絡繊維による相互接続にてそれぞれの機能を補いながら、
相補的な活動を行っていることがわかっています。
つまり、運動を学習の過程にはそれに関連した神経ネットワークの再組織化が行われるということです。

脳の再組織化

運動スキルを学習している際は脳の構造的な再組織化機能的な再組織化が起こると言われています。
構造的な再組織化とは、灰白質の増大白質繊維の変化のことを指し、
運動学習効率が高いものは楔前部や後帯状回の灰白質が大きいことが言われており、
この部位は安静時注意のコントロールや身体イメージ、
視空間情報やエピソード記憶の保持に関与する部位と言われています、
長期的な学習における運動パフォーマンスの向上と一次運動野、頭頂葉、前補足運動野の灰白質増大には正の相関があることなど
が報告されており、運動学習と脳の構造的変化には関連があることが示唆されています。

楔前部は目で見ている空間の情報(視空間イメージ)や,
エピソード記憶(経験した出来事とその際の時間・空間的な情報、その時の身体的・心理的状態などと共に記憶される)の再生,
自己処理に関する操作が挙げられます。

後帯状回は,視空間や過去の記憶を参照にして,外界からの刺激や自己の行動を評価する機能があると考えらています。

機能的な再組織化とは神経ネットワークの結合が増えたり経路が変化していくことを指し、
リハビリテーションによる介入ではこの機能的再組織化へのアプローチが主となります。

脳の修復の過程について知りたい方はこちらを参照してください。

これまでの研究によって、
運動学習前後の脳活動の機能的な違いや、学習段階の機能的な違いが明らかにされてきています。
Patelらは、運動学習前とあとの脳活動の違いについて調べており、
運動学習前の課題中の脳活動は、
前頭葉;両側の背外側前頭前野下前頭回運動前野
頭頂葉:上頭頂小葉
小脳:歯状核
前帯状回
の活動が運動学習後の脳活動と比べて強いことを示しています。

運動学習後の脳活動では、
前頭葉;両側背外側前頭前野下前頭回運動前野前帯状回
頭頂葉:下頭頂小葉
小脳:歯状核
大脳基底核後帯状回
の活動が増加することを示している。

背外側前頭前野:ワーキングメモリー注意機能に関与しており、運動学習前の活動では、この機能が強く必要であることを示唆している。
下前頭回:言語模倣に関与しており、動作などを覚えるための表象手続き(動作のやり方についての知識)
が行われていることが示唆されている。
上頭頂小葉:体性感覚情報処理に基づいた身体の空間的制御に関与する。
下頭頂小葉:概念形成(身体や道具の動かし方を含む)に関与する。
概念形成とは水を見て飲み物・冷たいなど経験を通じて学習していく過程を意味する。
歯状核:運動学習前では誤差学習のプロセスに関与し、
運動学習後では内部モデルに基づくフィードフォワード制御に関与している。

大脳基底核:被殻が運動記憶に関与している。

 

まとめ

  • 運動学習の様式には連続的運動学習と適応的運動学習とがある。
  • 連続的学習は動作の手順や動作における身体の操作手順の習得におけるプロセスに関与し、基底核が大きく関与する。
  • 適応的運動学習は道具を使った運動やその操作などに関与し実際の運動と結果のフィードバックによる
    誤差学習が重要で小脳が主に関与する。
  • 脳の再組織化には構造的再組織化と、機能的再組織化がある。
  • 構造的再組織化は灰白質の増大や白質繊維の変化、機能的変化は神経ネットワークの変化を指す。
  • 運動学習前と学習後では、関与する部位に若干の変化がある。

参考文献

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