痛みの神経メカニズム

人生を狂わせる「痛み」
目次
リハビリテーションという仕事をしていて、よく出会うのがこの「痛み」です。
肩や腰、膝の痛みなど、「痛み」は生活や仕事をする上で非常に辛く、「痛み」があるだけで楽しくなくなりますよね。
痛みがあると、気にしたくなくても痛い場所が気になるし、やりたいことが出来なくなったり、ストレスも溜まっていきます。
仕事をしている時に痛いから代わって!なんて言えないし、
痛いのを相談しても、相手はどんなに辛いかわかってくれない。
そんな経験をされた方の力になれるよう、記事を書いていこうと思います。
私も理学療法士として得た経験も交えていきたいと思います。
皆さんの人生が少しでも明るくなるよう誠意を持って書いていきます!!
生活をしていて、皆さんもどこか痛くなったことがあると思います。
今回は痛みのメカニズムを解説していきたいと思います!!
なぜ「痛み」が存在するのか
そもそもなんで痛みは存在するのか!
痛いのが辛いなら、痛みなんてない方が、いいんじゃないか!
そう思う方もいるかと思いますが、
身体にとって「痛み」は障害を知らせる重要な 防御機構
なんです!
生物は身体が受けた障害に気付かずにいると,命を落とす危険があるんです。
どういうことかというと、
痛みは生きる為に必要な感覚情報であり、命を守る為の機能なのです。
「痛み」は生活の質 Quality of life:QOL を低下させることになるということです。
医療職の人は痛みを詳しく知っているんじゃないか、と思っている方も居るかと思いますが、
実はリハ ビリテーションに関わる医療従事者である理学療法士や作業療法士、医師 や看護師は、
「痛み」に特化した教育は行われていないのです。
また、後にも述べますが、「痛み」には多種多様な原因があるため、それをうまく伝えれる、くみとれることが重要になると感じています。
「痛み」を感じるメカニズム
国際疼痛学会では、痛みは「実際に組織障害に伴ったか、あるいはその可能性がある場合やそのような障害があると述べられる不快な知覚、あるいは情動の体験」と定義しています。
この定義の重要なポイントは
1,痛みは知覚である ということ
2,痛みはあくまでも自身の主観的なもの であるということ
知覚にはいくつも種類があります。
a.特殊感覚(嗅覚,視覚,聴覚,平衡感覚,味覚)
b.体性感覚(触覚,圧覚,冷覚,温覚,痛覚)と運動覚,位置覚,痛覚
c.内臓感覚(内臓痛覚と臓器感覚)
b の中で痛覚が 2 回出ていますが、体性感覚の痛覚は皮膚からの痛み
もう一つの 痛覚は深部感覚(固有感覚)としての筋や関節などからの痛みになります。
さらに内臓感覚の中に内臓 痛覚が分類されています。(お腹が痛いといった体の深部から発生する痛み)
つまり、痛みは皮膚などや関節などの組織や内臓に存在する痛みを感じ取る受容器が興奮し、
脳に刺激が伝達され、それを感じることで認識されると言うことです。
痛みは主観的なものである
とは、どういうことかと言うと、
痛みの知覚(感じ方)はチクチクとか焼けるようなとか,また刺すようなとか重ーい感じとか、、、
人によって、また同一人物であっても状況によって、痛みの感じ方は異なりますよね。
痛みを他人に伝えようと思っても、理解してもらうことは難しいものです。
痛みは成長とともに後天的に学習していくものであることも明らかにされており、現在までの経験や心理的側面も大きく関与してきます。
つまり、人それぞれ痛みの感じ方は違っており、それは、現在に至るまでの経験や心理的側面が大きく影響してくると言うことです。
痛みの伝導経路
心理的な要因による痛みを除いて、組織への損傷が起ったか、その可能性を知らせる痛みはどのように神経系に伝えられるでしょうか。
身体に刺激が加わると、皮膚や筋などの体性感覚や関節などの深部覚に刺激が入ります。
この不快な刺激は侵害刺激と呼ばれます。
侵害性の障害を受け止める受容器は侵害受容器(nociceptor)と呼ばれます。
侵害受容器は一次感覚ニューロンの自由神経終末の細胞膜に組み込まれています。
侵害受容器の分類はkandelによって4 種類に分類 されています。
- 機械侵害受容器 mechanical nociceptor: 強い圧力などの機械刺激に反応する。
- ポリモーダル侵害受容器 polymodal nociceptor:多くの刺激(機械刺激、温度刺激、化学物質刺激)に反応する。
- 温度侵害受容器 thermal nociceptor:45℃ 以上あるいは 5℃以下の温度に反応する。
- サイレント侵害受容器 silent nociceptor: 通常では反応しない。炎症や様々な化学物質がある場合に感受性が変化して反応する。これらの受容器はイオンチャネルであり、陽イオンを神経線維内に取り込み、一次感覚ニューロンの自由神経終末を脱分極させ、活動電位を発生させることで、刺激を中枢に向かって伝えます。
イオンチャネルには - 細胞膜を貫通して陽イオンを透過させる陽イオンチャネル
陰イオンを透過させる陰イオンチャネル
がある。
イオンチャネルは普段は閉じていて、刺激があると開いてそれらを伝達していきます。
神経細胞でいうと、チャネルが開いて陽イオン(Na+, Ca2+)が細胞内に入ると神経は興奮しやすくなり、
陽イオン(K+)が細胞外に出るか陰イオン(Cl- )が細胞内に入れば神経は興奮しにくくなります。
チャネルはどのような刺激によって開くかで分類されます。
- 電位依存性チャネル:膜電位が変化すると, チャネルを構成するタンパク質の構造変化が生じることでチャネルが開く 。
- リガンド依存性チャネル:特定の受容体に結合するリガンドと総称される物質が、チャネルを構成するタンパク質に結合することでチャネルが開く。
- 機械刺激依存性チャネル:物理的な刺激によって作用するチャネルであり、チャネルを構成するタンパク質が細胞外基質や
細胞骨格と結びついており、細胞内外が動く力により刺激されることが明らかになっている。
機械侵害受容器、ポリモーダル侵害受容器、温度侵害受容器,サイレント侵害受容器などに
侵害刺激が加わることで受容器が活性化され,感覚神経終末に活動電位を発生させ
痛みの信号がインパルスとして中枢に向かって伝えられ、この刺激が温度や強い圧力、あるいは化学物質であったり
組織が損傷すると様々な物質が遊離してこれが痛み刺激となる(発痛物質)。また直接、発痛効果はないが、痛み刺激に対する感受性を高める発痛増強物質もあります。
痛みの物質にはブラジキニン、ヒスタミン、セロトニン、プロスタグランジン(PG)、サブスタンス P、ロイコトリエン、ATP(アデノシン三リン酸)等がある。
ブラジキニン:血管が損傷されると血管内皮からポリペプチドであるブラジキニンが作り出される。
⇨発痛作用以外に,血管拡張作用,血管透過性亢進作用があるため炎症を引き起こす。
ブラジキニンは 肥満細胞からヒスタミンを放出させる。
ヒスタミン:肥満細胞から放出される。少量では痒みを引き起こしますが,この物質の量が多くなると痛みを引き起こす。
セロトニン:炎症によって血小板から放出される。これが発痛物質として作用するため痛みが強くなる。
PG:損傷された細胞膜から作り出された 損傷される。ブラジキニンの発痛効果を強める働きをする。
サブスタンス P、ロイコトリエン、ATP :侵害受容器の感受性を高めることで、痛み反応を強くする作用がある。
組織が損傷することで生じた炎症で様々な化学物質が合成・放出されることで痛みが持続し、
また,炎症で生じた化学物質が痛みの受容の閾値を下げるため、普通では痛みにならない刺激でも痛みを感じることがあります。
組織損傷で炎症が起こり、痛みが持続する際炎症が生じている組織ではでは血管拡張が起こり、
血管透過性が亢進することで、損傷組織の修復にとって必要な材料を送り込むのに都合がよい状態となっています。
また,痛みの持続は損傷個所が修復中であることのサインであり、安静にすることが重要と言えます。
損傷を修復しようと身体が必死にお仕事しているということです。
お仕事してくれている時に、損傷部位を過度に動かしたら仕事の邪魔ですし、
余計な仕事が増える可能性もありますから皆さんご注意ください。
マッサージの効果
皆さん大好きなマッサージ!ここでは、その効果と限界について解説します!
定義:「マッサージは徒手または機会を用いて体表組織に機械的および反射的作用を与え、血液・リンパ液の循環を促進し、神経機能に影響を及ぼして、疾病の治療または予防、あるいは健康を増進するために用いられる物理療法の一種である」
「こり」とは、過剰に使用された筋肉が弛緩出来なくなった状態のこと。
詳しくは↓
運動を行う中で一部の筋に過負荷や過剰疲労が生じアセチルコリン(神経伝達物質)が過剰分泌され、筋小胞体からカルシウムイオンが多量に放出され、その筋の持続的収縮を引き起こすため、エネルギー要求が増す。しかし、筋収縮によって血管が圧迫されて阻血が生じ酸素分圧は低下し、エネルギー供給源となるATP、ADP、クレアチンリン酸が欠乏する。このエネルギー危機を修復しようと、肥満細胞やシュワン細胞から痛覚過敏物質が放出されて、自律神経終末などを刺激して、痛みを引き起こす。また、筋からの痛覚線維のインパルスが交感神経の反射活動を高めて虚血をもたらすばかりでなく、交感神経の反射によって放出されるノルアドレナリンが痛覚受容器を過敏にする。
ATPが欠乏するとアクチンとミオシンの連結橋が切れなくなり収縮を維持することで「こり」となる。
マッサージの基礎
方法
- 軽檫法:その名の通り、手や指を対象部位にあてて軽くさする方法。
- 揉捏法:手のひらや指を使って、痛みや違和感がある部分に手を密着させ、患部の筋をつかむようにしながら、そこに垂直に圧力をかけていきます。
- 強檫法:手のひらを対象部位に深く押し付けるようにします。手のひらは、一旦押し付け、円を描くようにしながら移動させ、また押し付けるといった動作を繰り返しますが、硬くなった筋肉や筋を擦りながら押すといった感じで、強引に押さないようにします。
- 殴打法:リズミカルに軽く叩く方法です。叩く方法もいくつかあります。
- 振戦法:手のひらや指の端を使い、垂直に骨に向かって圧迫しながら、バイブレーターのように筋肉全体を震わせます。
- 圧迫法:指の頭、手の付け根などを使って圧迫し、刺激を加える方法です。
マッサージ療法の生理学的作用
①経脈の調整:中国医学で用いられる「経脈」や「経血」、いわゆるツボのこと、現在でも用いられる「トリガーポイント」と約8割程度一致しているとも言われています。過去の偉人はすごいなあ。詳しくは別の機会にするとして、不動や使いすぎによって筋肉に微小な損傷や炎症が起きることがあり、これによって、筋肉を包んでいる膜(筋膜)が動きにくくなる(癒着)ことがあります。これをマッサージによって動きやすくすることが目的です。
②皮膚温の上昇:機械的刺激が皮膚から伝わることで皮膚の受容器を興奮させ、反射的に血管が拡張し、皮膚温が上昇します。
③リンパ液の循環促進:末梢(身体の遠位側)から中枢側(身体の中心側)へ向けてマッサージを行うことで末梢側に沈滞しているリンパ液や老廃物を中枢側に押し出す。
④血行の改善と鎮静効果:末梢から中枢側へマッサージを行うことで末梢側に沈滞している血液などを中枢側へ押し出し、循環を良くする。また急性筋疲労による筋痛や筋緊張を鎮静、弛緩させる効果がある。
⑤神経系への効果:皮膚や筋の圧迫の程度やマッサージの手技によって神経に対して興奮増大や鎮静効果が得られる。
⑥筋緊張の調整:他動的に筋に刺激を加えることによって、筋緊張が変化し循環が促進される。循環が促進されることで筋に貯留した疲労物質が取り除かれ疲労回復につながる。筋や皮膚を刺激することで筋の興奮性が高まり、筋が収縮しやすい状態となる。
⑦反射的効果:ツボをマッサージすることで、内臓体壁反射により、内臓の働きを調整することができる。
⑧誘導作用:患部から中枢へ向けてマッサージすることで、炎症症状を軽く抑えることができる。
⑨興奮作用;筋の緊張低下などが生じている場合、殴打法などを用いることで、機能の促進を図ることができる。
以上、痛みのメカニズムやマッサージの効果をお伝えしました。
また、役立つ情報をお伝えできるよう、精進していきますので、これからもよろしくお願いいたします。
本郷利憲,廣重力,豊田順一・他編集:標準生理学.第 3 版,P184, 医学書院 1995.
金澤一郎,宮下保司日本語監修:カンデル神経科学.第 4 版,メディカル・サイエンス・インターナショナル 2014.
小山なつ:痛みと鎮痛の基礎知識.上巻,技術評論社,2013.
標準理学療法学,専門分野,物理療法学.第4版P206〜226,医学書院2013.